鉄道ホビダス

2009年6月11日アーカイブ

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▲伊藤 昭さんが撮影されたト31形の貴重な形式写真。所沢工場を検査出場したばかりの姿である。側面の白い十字標記は制動筒(ブレーキシリンダー)を持たない貨車を意味する。'51.5.25 井荻 P:伊藤 昭(所蔵:伊藤威信) (RMライブラリー『所沢車輌工場ものがたり』(上)より)
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さて、そのト31の実車についてのお話です。戦前・戦中の東京都市部での糞尿処理は、まず木製の肥桶(18?)に汲み取り、大八車やリアカーで街角の集積所へ運び、そこからはトラックで都内主要河川の河岸に設けられた中継場の貯溜槽へ、そして今度は伝馬船に積みかえられて東京湾に海中投棄されるという手順でした。ところが戦争の激化とともにガソリンが統制され、木炭ガスなどの代用燃料に頼るも、トラックがまともに動ける状況ではなくなってしまったのです。つまり輸送の中間部分が稼動しなくなってしまったわけで、窮地に追い込まれた東京都は、鉄道によって区部の糞尿を郊外の農村地帯に輸送して肥料として活用することを計画します。

to31fig03.jpg1944(昭和19)年4月、東京都はこの計画を実現するために運輸通信省(旧鉄道省)をはじめ、各私鉄に協力を要請しますが、さまざまな理由をつけて断られ、最終的に協力を買って出たのは西武鉄道(旧西武鉄道=村山線・川越線)と武蔵野鉄道(のちの池袋線)、それに東武鉄道の3社のみでした。戦後、武蔵野鉄道と西武鉄道(旧)、それに食料増産が合併して「西武農業鉄道」(1945年9月22日~翌年11月14日)を名乗ったこともあってか、鉄道事業者側の思惑で糞尿輸送に関わったかのごとき誤認を生みがちですが、決してそうではなく、むしろ東京都の窮地に手を差し伸べたわけです。
▲積込所と貯溜槽の概念図。(益井茂夫さん作成。『トワイライトゾ~ン・メモリーズ1』所収)
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かくして西武鉄道では戦時中の1944(昭和19)年6月から糞尿輸送を開始します。現在の新宿線系統では井荻、池袋線系統では長江(東長崎-江古田間)に積込場を設け、前者では田無、東小平、東村山、小川に、後者では清瀬、狭山ヶ丘、高麗の各駅に貯溜槽を設置したとされます(益井茂夫さんによる)。

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▲『トワイライトゾ~ン・マニュアルⅣ』の戦後50年特集では「神聖なる不浄」と題して、新宿線井荻駅の貯溜槽線にずらりと並ぶト31を紹介している。1946(昭和21)年6月25日号の『アサヒグラフ』に掲載されたもので、まだほとんどの車輌の上部に柵状の囲いがあるのに注意。 (『トワイライトゾ~ン・マニュアルⅣ』=品切=より)
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この輸送用に改造を施されたのがト31形です。やはり益井さんの調査によれば、判明している車番は34、37、68~76、83、90~101、107の25輌で、いずれも川越鉄道と多摩鉄道からの引き継ぎ車ですが、堤康次郎は「糞尿専用タンク車を早急に115輌ほど新造する」必要があると考えていたとの記述も見受けられ、旧西武・武蔵野あわせてかなりの輌数が存在したものと思われます。

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東京都との輸送契約は1953(昭和28)年3月末まででしたが、燃料事情の好転もあって、それよりかなり前、1951(昭和26)年頃には糞尿列車は運転されなくなっていたようです。今回、伊藤威信さんのご理解を得て再掲させていただいた伊藤 昭さん撮影のト69の写真は、その最末期を捉えた極めて貴重なものと言えましょう。
▲村山線(新宿線)系統積込所・貯溜槽配置概念図。(益井茂夫さん作成。『トワイライトゾ~ン・メモリーズ1』所収)
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ちなみに、実態は木造タンク車なのにも関わらずなぜ無蓋車=トなのでしょうか。もちろん煩雑な形式変更手続きを嫌ったとも想像できますが、もうひとつの鍵は初期の写真にあるタンク体上部の柵にあります。手すりともつかないこの柵、渡辺一策さんのご教示によれば、“返空”時に農地からの野菜を載せてくるためのものらしいとのこと。なんと、ト31形は期せずして双方向輸送を実現していた元祖エコ貨車だったわけです。

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