鉄道ホビダス

2009年5月25日アーカイブ

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▲機関庫(?)に眠る謎のガソリン機関車。機関庫と言ってもほとんど倉庫で、お目当ての機関車は戦前のある日、仕業を終えて入庫して以来ずっとこの暗闇に潜んでいるらしい。'09.4.17
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もとの機関庫と思われる木造二階建ての倉庫は、今ではほとんど使われなくなっているようで、古めかしい木製の扉には南京錠が掛けられて、さながら開かずの間といったところでしょうか。お願いしてその扉を開けていただくと、ひさしぶりに差し込んだ光の先にまるで骸骨を連想させる小さなガソリン機関車の姿が…。倉庫内に照明装置はまったくなく、扉から差し込む外光だけが頼りですが、次第に目が慣れてくると、機関車ばかりか平トロやらレールやら車輪やら、軌道関係用品の一切合財がこの倉庫に詰め込まれているのがわかります。

090525n003n.jpg機関車は原始的なフリクション変速装置を持つ軌間2フィート6インチ(762㎜)、3t程度の超小型機で、見渡した限りではアイデンティティーを証明するものはまったく見当たりません。唯一、不似合いなほど大きなラジエーターのシェルに“Buick”(ビュイック)の七宝製エンブレムが残されています。古いトラックに詳しい姉妹誌『Model Cars』編集部に鑑定を依頼したところ、1920年代後半から1930年代初頭にかけてのものだとか…。ただ、このラジエーターを見て機関車自体がただちにビュイックと何らかの関係があると見るのは早計で、この手の機関車にありがちな、製造後に振り替えられた可能性も否定はできません。
▲ラジエーターシェルには七宝製のビュイックのエンブレムが光る。'09.4.17
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▲キャブ構体はほとんど骨だけとなってしまっているが、雨ざらしでないだけ外見ほど状態は悪くない。左に平トロが立てかけてあるのが見える。'09.4.17
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▲原始的なフリクション変速装置もほとんど欠品のないまま残されている。ちなみに円板は出力側がφ565、変速側がφ600(いずれも実測)であった。'09.4.17
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▲フリクション変速方式の模式図。機械式ミッションを使った変速機より格段に構造が簡単。 (『トワイライトゾ?ン・マニュアル 3』より)

フリクション変速方式はギアを使った機械式変速機が普及する前に用いられていた極めて原始的な変速方法です。エンジンの出力軸(クランクシャフト)に直結した円板(フライホイール)に、これと直角方向で左右にしゅう動できる円板(摩擦輪)を押し当てることによって動力を伝達、変速・逆転を行なう方式で、“摩擦”がすべてなだけに牽引力が限られている反面、構造が極めて単純でメンテナンス性に優れているメリットもあります。以前ご紹介した渡邊製GL(アーカイブ「古典ガソリン機関車救出作戦」参照)を含め、わが国に残存しているフリクション・ドライブの内燃機関車はわずか5輌ほど、極めて貴重な個体と言えましょう。

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▲直列6気筒ガソリンエンジンの給排気側(左)と電気側(右)。“Buick”の陽刻は確認できたものの、残念ながら形式を特定することはできなかった。'09.4.17
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それにしても機関車自体の出生を暗示させるものはまったく見当たらず、謎解きは今後の課題と言えましょう。実測によるディメンションは全長2850㎜、全幅1110㎜、ホイールベース950㎜で、類似のプリムスCL形より多少小ぶりです。

090525n007.jpg動力近代化の旗手として投入されたこのガソリン機関車でしたが、先述のように脆弱な軌道状態ではとても使用に耐えず、いくばくもなく使われなくなってしまったのだそうです。現在機関車が載っているレールにしても、実測で高さ50㎜ほどですから、換算すれば6㎏/m程度と、とても機関車が運行できそうもない軽レールです。いったいいつ頃使われなくなったのかは定かではありませんが、戦後は再び馬力に戻っていたということですから、戦前、しかも燃料事情が逼迫するはるか以前に眠りについたのではないでしょうか。
▲主台枠のステップ部分。基本的には初期のプリムスCL形等と類似した形態である。'09.4.17
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遙か半世紀以上も眠り続けているこの謎のガソリン機関車、いつの日か天草陶石の歴史の語り部として保存されることを願ってやみません。
最後に、ご親切に案内下さった上田陶石の皆さんに改めてお礼申し上げます。

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