鉄道ホビダス

2008年9月23日アーカイブ

田尻弘行さんの訃報に…。

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▲田尻弘行さんの遺作となったRMライブラリー『鹿児島交通南薩線 ―南薩鉄道顛末記-』上下巻。病と闘いながらの上梓であった。

先月発売のRMライブラリー『鹿児島交通南薩線 ―南薩鉄道顛末記-』の著者のお一人である田尻弘行さんがお亡くなりになりました。享年73歳。この本の上梓にまつわる背景を一番良く知る者として、改めて残念でなりません。

tajirisan2.jpg同書あとがきでも多少触れられておられますが、田尻さんは3年ほど前に前立腺癌が末期の状態で発見され、手術もできぬまま病と闘い続けておられました。それでも昨年までは撮影行にもおいでになり、比較的静穏な日々を送っておられましたが、今年に入ってから病状が悪化、RMライブラリー『鹿児島交通南薩線 ―南薩鉄道顛末記-』も執筆半ばで筆をとることさえままならなくなってしまいました。
▲お元気だった頃の田尻さん。東北本線田尻駅での“ツーショット”。P:井門義博

同書は共著者である髙井薫平さんがまえがきでお書きになっているように、お二人にとって半世紀の間燻っていた数々の思いへのリベンジでもありました。お二人の“デビュー作”だった南薩鉄道をもう一度しっかりとまとめて後世に残しておきたいという思い、出会って間もない髙井さんが田尻さんのお名前を間違えて出版社に伝え、それが掲載されてしまった慙愧の思い、そしてなによりも、田尻さんの体調の時間的な制約のなかで、刎頚の友である髙井さんがなんとかご存命中に完成本を見せたいとの強い思い…そんな数々の思いが交錯しての上梓だったのです。実際、昼夜兼行の厳しいスケジュールではありましたが、今となっては、あと一ヶ月遅ければ「下巻」の完成をお見せすることが叶わなかったことになり、その面では田尻さんとの約束を何とか果たすことができたことになります。

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▲これまでにRMライブラリーでまとめられた作品の数々。最期までご出身の九州の地方鉄道に拘り続けておられた。

田尻弘行さんは1935(昭和10)年生まれ。九州で高校までを過ごされ、慶應義塾大学工学部に進まれました。同大学の鉄道研究会で髙井さんらと出会い、本格的な鉄道趣味を開花させたとうかがっています。卒業後はわが国を代表する通信機器会社に入社され、要職をお務めになったのち、関連会社の社長に就任。会社経営という重責の中で、ご専門の工学分野ではなく経営史に強く興味を持たれ、RMライブラリーで纏められた地方鉄道史の数々も、出資者や資本比率といった従来の趣味的鉄道研究ではあまり顧みられることのなかった部分を丹念に調べ上げておられました。

zuritra.jpgとりわけ地方鉄道と路面電車がお好きだった田尻さんは、リタイアされたのちは積極的に海外にもお出かけになりました。なかでも7年ほど前にタスマニアを訪問された際、同地の市電博物館が復元用に3’6”軌間用の低床台車を探しているのを聞き、篤志で東奔西走、名古屋鉄道からモ575号の台車を譲り受け、個人的努力で輸出・贈呈されたのは極めて強く印象に残っています(本誌282号=2007年3月号参照)。この台車はロンセストン市電博物館29号に履かされ、今後、同車は動態走行する計画と聞き及びます。田尻さんにはその功労を称えて表彰盾が贈られていますが、ご本人亡きあとも、タスマニアの市電はその遺志を継いで走り続けてくれるに違いありません。
▲リタイアされてからは世界各地の鉄道探訪も楽しまれた。これはチューリッヒのトラムミュージアムを訪問された際にお土産としていただいたチョコレート。

「南薩」の執筆に取り掛かりながらも、「次は島原」とあくなき探究心で意欲に燃えておられた田尻弘行さん。まだまだライブラリーの巻も重ねていっていただきたかっただけに、なんとも残念でなりません。謹んでご冥福をお祈りいたします。

なお、田尻弘行さんの葬儀は下記のとおり執り行われます。
日時 通 夜:9月24日(水曜日)19時から
   告別式:9月25日(木曜日)11時から
場所 「セレモニア溝の口会堂」(川崎市高津区下作延156)

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