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レイル・マガジン編集長自らが作る編集日記。

2007年4月 8日

『古典ロコ』の時代。

kotenloco1n.jpgわが国の営業鉄道趣味誌の草分けとしては『鉄道』(1929?1938年)と『鉄道趣味』(1933?1937年)が知られていますが、次第に戦時色が強まるなかで「国策の線に副う」として相次いで休刊、戦前の鉄道趣味界は一気に活力を失ないます。そこに彗星のごとく登場したのが会員制の同人誌『古典ロコ』と『つばめ』でした。

『古典ロコ』創刊号表紙。1940(昭和15)年2月11日発行。「皇紀2600年」を表した表紙デザインは終刊まで一貫して変わらなかった。

kotenloco7n.jpg関東では高松吉太郎さんを中心とした「つばめクラブ」が、関西では西尾克三郎さんを中心とした「クラシカル・ロコ・クラブ」が同人を募り、それぞれ『つばめ』、『古典ロコ』と題する同人誌を発行し始めました。ともに創刊は1940(昭和15)年、『鉄道』が終刊してから一年あまり後のことです。両誌ともA5判の孔版(ガリ版)印刷ながら、写真はなんと一枚一枚印画紙をそのまま貼付してあります。同人(会員)のみに頒布する小部数だからこそ可能な方法でしょうが、それにしてもその手間の掛かりようは現代的感覚では信じられません。
▲創刊号目次。写真は西尾克三郎さんによる寿都鉄道2号機や松森俊介さんの防石鉄道のガソリンカーなど4葉が、青図は金田 茂さんによる北海道炭礦鉄道9・10号機形式図など2枚が入っている。
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▲2号に掲載されている松森俊介さんの「会陽と西大寺鉄道」。左上の写真は安保彰夫さんによるRMライブラリー『西大寺鉄道』に再録させていただいている。

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▲『古典ロコ』最大の特長は印画紙がそのまま貼付けられていること。上の西大寺鉄道もこのとおり「生写真」である。

手元にある『古典ロコ』をひもといてみると、毎号5?6枚の「生写真」が貼付されています。ブローニー判や手札判乾板の密着が主ですが、主宰されていた西尾さんの手によるプリントなのでしょうか、60年以上を経た今でも変色ひとつなく、まるで昨日プリントされたかの如く鮮やかです。掲載(貼付?)写真のなかにはその後の戦災で原版が失われてしまったものも少なくなく、今となってはたいへん貴重な画像の数々です。

kotenloco3n.jpg高松さんが主宰された『つばめ』が市電・路面電車中心の内容だったのに対し、西尾さんによる『古典ロコ』は「古典ロコ並に私鉄研究の会」(創刊号“巻頭の辞”より)としてのクラシカル・ロコ・クラブ会報という位置付けで、今村 潔、臼井茂信、金田 茂、谷川義春、松森(牧野)俊介といった錚々たる方々が極めて高度な記事を発表されていました。
▲誌名の古典ロコばかりでなく、最新の動静も伝えられている。これは6号に掲載されている「新製蒸気機関車の配属」で「番号:C57 135 落成:昭和15年5月27日 製造所:三菱 配属局:東京」の記載もある。
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kotenloco8n.jpg「省1255形式1255探求記」(臼井茂信/10号)に代表される誌名どおりの古典ロコ研究から、「岩井町営軌道見聞記」(若松生/6号)、「住友別子鉱業所鉄道所属機一覧」(金沢二郎/1号)といった私鉄探訪記や資料、さらには「C51の煙突改造機番号及所属区名」(5号)、「2120形機の広軌改造試験」(7号)などの鉄道省関連記事も盛り込まれており、各号わずか30頁ほどながらたいへんな充実度です。ちなみに毎号の奥付には発行日とともに発行部数、さらにはシリアルナンバーがナンバリングされています。各号を改めて見直してみると、部数は90部でほぼ固定していたようで、「非売品 90部限定の内○号」(○はナンバリング)の記載が見られます。
▲1941(昭和16)年2月10日発行の第10号。創刊からちょうど一年、これが『古典ロコ』の終刊号となった。

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皇紀2600年(1940年)の「輝かしき年を記念して」(創刊号“巻頭の辞”)勇躍スタートを切ったこの『古典ロコ』ですが、すぐに転機が訪れてしまいます。終刊号となった第10号(1941年2月)の「編輯余禄」にはその辺の苦しい事情が切々と語られています。
「昨秋以来急に防諜取締りが厳になりました。之迄軍機保護法、軍用資源秘密保護法等の法規による撮影禁止より以上に行政上の取締り範囲が多くなり今迄は何等制限もなかった私鉄での撮影も出来ぬようになってしまいました。車輌だけの写真なら許されるだろうと一応は考えられますが車輌を写す為には駅とか機関庫へ行く訳ですからどうしても場所柄禁止されて終うのは止むをえないことでありませう。我々の立場からすれば甚だ残念な事ですが今やとやかく申すべき時ではなく御互に守るべき事は固く守って行き度いと思います」
▲「当初目的として掲げました各地私鉄の研究が時局の急進展により誌上発表を見合わすべきが至当と考えられるに到りました(後略)」と「終刊の辞」が掲げられた第10号巻頭。右頁は本文の「1255探求記」(臼井茂信)の付図として添付された鉄道省1255形の青焼形式図。

かくして『古典ロコ』は10号を数えただけで終刊。同様に『つばめ』も10号で終刊し、鉄道趣味は本当の冬の時代を迎えます。現在の平和、そして鉄道趣味の隆盛ぶりからは想像もつきませんが、いつも『古典ロコ』を手に取ると、逆境のなかで先達がこの趣味にかけた情熱に心打たれ、ともすると忘れがちな“原点”を再認識する思いがします。