鉄道ホビダス

2007年3月14日アーカイブ

DH000048nn.jpg
肥薩線の視察で訪れた人吉の機関庫でとんでもないものを発見しました。石積みの庫内を見学させていただいている際にふと目に止まったのが、3線あるうちの一番北側の線の奥に“うずくまっている”小さな台車です。なにやら古枕木が無造作に積まれたそれは、まさに“うずくまっている”という表現がぴったりの状況で暗闇に潜んでいます。ただ、そこはこの道○十年、遠めに一目見ただけでただならぬオーラを感じ、吸い付けられるように駆け寄りました。やっぱり! そうです、「97式」に間違いないではないですか…。
▲石積みの3線矩形庫の一番奥に潜んでいたのは旧陸軍の「97式軽貨車」の片割れだった。発見時の興奮が今もって鮮明に甦る。'07.3.8

DH000057nn.jpg
▲復旧用や検修時に“馬”代わりに使われた枕木だろうか、無造作に重ねれらた様子からは一見してただのトロッコにしか見えない。'07.3.8

小誌トワイライトゾ?ンをご覧いただいている皆さんには改めてご紹介するまでもないかと思いますが、「97式」とは正式には「97式軽貨車」と呼ばれる旧日本陸軍の鉄道聯隊が採用した“正式貨車”のひとつです。神武紀元2597年、つまり1937(昭和12)年に正式採用されたことから「97式」と命名されました。基本的には1931(昭和6)年(=2591年)に正式採用された「91式軽貨車」を設計変更して荷重を5tから8tに引き上げたもので、2台車をペアとしてその上に各種の荷台を搭載して物資や兵員輸送に使用されたものです。時には何輌も組み合わせてさながら大物車のように橋桁などの重量物の運搬にも使われる、まさにマルチパーパスな軍用貨車です。

DH000052nn.jpgDH000058nn.jpg
この「97式」の最大の特徴はゲージの可変機能を持っている点で、「戦場に架ける橋」で知られる泰緬鉄道などインドシナへの南進の際にはメーターゲージ(1000㎜軌間)に、朝鮮半島と中国大陸では標準軌(1435㎜軌間)にと数種類のゲージに対応する臨機応変な構造となっています。車輪を押さえている車軸のスペーサー(カラー)を組み変えるだけで瞬時(?)にゲージを変更できるシステムは、アナログながら70年前の「フリーゲージトレイン」と称せましょうか。
▲97式の最大の特徴はゲージの可変機能。メーターゲージから広軌までスペーサー(写真左)を組み変えることによって対応できる。さらに国鉄車輌でもメタル軸受が当たり前の時代にベアリング軸受(写真右)を採用していた点も特筆される。'07.3.8

戦時体制の中で軍部から主要車輌メーカーに生産が振り分けられ、今もって正確な輌数は判明していないものの、膨大な数の「97式」が誕生し、そしてその大半は戦地に送り込まれたまま帰国することはありませんでした。

DH000054nn.jpgDH000056nn.jpg
▲2台車がペアで使用されるため、朝顔型カプラーは片側にのみ付く。下に見える逆V字型のパーツはブレーキハンドルとブレーキロッドのリンク。端梁にはアルミ製の「梅鉢」の銘板がしっかりと残されている。'07.3.8

15年ほど前から小誌トワイライトゾ?ンではこの「97式」の発見を読者の皆さんに広く呼びかけ(『トワイライトゾ?ン・マニュアル 2』所収「さまよえる軍用貨車の亡霊」)、作業用の台車などとして各地で残存情報が寄せられてきました。九州内でも、今はなき大分交通耶馬渓線中津駅構内や熊本電鉄北熊本電車庫などで発見報告がありますが、この人吉庫の個体はもちろん未発見。しかも端梁には「昭和15年6月 梅鉢車輌株式会社 大No.B2635」と刻印された銘板もしっかりと残っています。梅鉢製の97式も貴重ながら、刻印の「大」の文字も初めてです。これまでは片仮名の「チ」が刻印されているものは少なからず発見されており、こちらは鉄道第一聯隊の本拠地の千葉を示すのではないかと類推されていましたが、それではこの「大」はいったい何を意味するものなのでしょうか?

97nn1069nn.jpg
▲竣功時の91式軽貨車公式写真。このように2台車がペアで1輌となって使用される。車端に見えるローラーは戦地でのレール繰り出し用で、搭載したレールをこれによって敷設すべき進行方向に繰り出してゆく。ちなみにかの泰緬鉄道は、延長415kmがわずか16ヶ月、つまり一日約890mという驚異的スピードで敷設されたことになる。(川崎車輌原図)
クリックするとポップアップします。

肥薩線の産業遺産・近代化遺産を巡る視察から、瓢箪からコマのごとく発見された歴史の生き証人「97式」。可変ゲージ機構や製造銘板など、残された97式の中でも実に状態の良い個体だけに、なぜ人吉にあるのかの謎解きを含めて、ぜひこの発見を機に末長い保存・展示を望みたいものです。

レイル・マガジン

2007年3月   

        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
「編集長敬白」が携帯電話でもご覧になれます。下記アドレスもしくはQRコードを読み取ってアクセスしてください。
http://rail.hobidas.com/blog/
natori/m/

ホビダス・マーケット新着MORE

  • 俺がイル
ネコ・パブリッシングCopyright © 2005-2018 NEKO PUBLISHING CO.,LTD. All right reserved.