鉄道ホビダス

細倉鉱山の「ABC」。

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“ABC”と聞いて「浅野物産」を連想する人はまずおられないと思いますが、今日はこのABCこと浅野物産のガソリン機関車のお話です。
▲鶯沢町鉱山資料館に保存されている“ABC”の1'8"(508㎜)軌間の超小型ガソリン機関車。とにかく目が点になるほどの小ささだ。'05.5.15

来月末で営業を終了してしまうくりはら田園鉄道がまだ栗原電鉄だった頃、しかもまだ細倉鉱山が元気に稼動していて貨物輸送が行われていた当時、その細倉鉱山の駐車場にえらく小さなガソリン機関車が置いてある…という話を耳にしました。しかもどうやらかなりの年代モノらしいとのこと。これは是非とも実見せねばならないと、ちょうど四半世紀前、東北地方の私鉄・専用線を巡る旅の途中で足を向けてみました。

hosokuraabc11n.jpg終点・細倉鉱山駅から操業中の細倉鉱山を横目に見ながら鉱山道路を進みますが、“観光坑道細倉マインパーク”となっている現在とはまったく異なり、周囲は結構ピリピリした雰囲気で、とても不用意にカメラを向けられる状況ではありません。それでも尋ねに尋ねてようやくお目当てのガソリン機関車らしきものを発見しました。「いやぁ、小さい!」。目の前にちょこんと置かれた機関車は、思わず声をあげてしまうほどの小ささです。言うなればエンジンがそのまま走っているようなものとでも形容できましょうか。ちなみにこの時の実測によると、全長(端梁間)1950㎜、全幅850㎜、全高(踏面からボンネット上)1230㎜、ホイールベース610㎜、車輪径約300㎜と、内燃機関車としてはこれまで目にしたどの機関車よりも小さいものでした。
▲キャブと言えるのかどうか…イスさえ装備されておらず、運転は立ったまま行なうようだ。'06.11.26

hosokuraabc12n.jpgところで果たしてこの奇怪なガソリン機関車、どういった素性のものなのでしょうか。戦後まで細倉鉱山の通洞坑(水平坑)で使用されていたということしか伝えられておらず、鉱山側でも詳細は不明ということでした。そこで無理を承知でボンネットを開けさせてもらい仔細に検証させてもらうことにしました。ところがボンネットを開けてまたまたびっくり。なんとエンジンはフォードのAタイプが搭載されているではないですか。もちろん特徴的な形状のディストリビューターなど補機類はほとんど国産品に換装されてしまっていますが、本体は博物館モノのAフォードそのものです。さらに調査を進めると、ラジエーター・シェルに何やらプレートのようなものが見えます。残念ながら厚く塗料が塗り重ねられてしまっていて“透視法”をもってしても判然とはしませんが、菱型の中に“ABC”のような文字が…。キャブ側に回ってみると、これまた機器類が邪魔で読み取りにくいのですが“ASANO BXXXXX(Xは不明)”“TOKYO”“JAPAN”の陽刻を発見しました。類推するにこの機関車、戦前の「浅野物産」のものに違いありません。
▲何とも形容しがたい顔立ち。ラジエーター・シェル上部にプレートが取り付けられているが判然とは読み取れない。'06.11.26

hosokuraabc13n.jpg米国製ガソリン機関車“WHITCOMB”(ホイットコム)の輸入代理店としても知られた浅野物産は、東京・丸の内に本店を構える戦前を代表する商社のひとつでした。大阪に支店、横浜・神戸・横須賀・佐世保・舞鶴、さらには京城や大連にも出張所を設け、ニューヨークやロンドンにも出先機関を置いて手広く商いを行っていました。拙著『森製作所の機関車たち』でも多少触れましたが、同社は次第に海外製品の輸入ばかりでなく、OEMによる自社製品の開発販売にも手を広げたようですので、このミニ機関車もそんな状況のなかで誕生したのかも知れません。
▲キャブ部に鋳出されている文字。わかり易いように矢印で位置を示したが、肝心の「ASANO BUSAN」の文字はレバーが邪魔になって読み取りにくい。'06.11.26

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▲25年前、初めてこの機関車を目にした時の状況。Aフォードエンジンが燦然と輝く。ネガを見返すと、ペンタックス67で執拗に写し込んでいることからも、当時いかにこの機関車に感激したかを思い出す。ちなみに同系機は佐渡金山にもいたようで、わずかながら写真が残されている。'82.3.21

一昨年春に続いて昨年の11月にくりはら田園鉄道を訪れた際にも、今は鴬沢町鉱山資料館の中庭にきちんと保存されているこの機関車を再訪する機会を得ました。マインパークと違い、この鉱山資料館の方は観光客も少ないようで閑散としていましたが、“ABC”の機関車は変わりなく屋根付きの展示場で大事に保存されており、ほっとひと安心でした。これから3月末までの間にくりはら田園鉄道を訪問されようという方も少なくないかと思いますが、その際は是非この超ミニ機関車も訪ねてみては如何でしょうか。

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