鉄道ホビダス

さようなら「コダクローム」。

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「ご時勢とはいえ寂しい限りです」そんなメールを諸河 久さんからいただいたのは先週のことです。添付されたリンクにはコダック株式会社の「コダクローム64フィルム販売終了のお知らせ」というリリースが。デジタル全盛時代とはいえ、ついにあのコダクロームが消えてしまうのです。
▲1980年代をともに駆け抜けたキヤノンF-1とともに…。どれほどあの黄色いパッケージにお世話になったことだろうか。

pkrph2n.jpg同リリースによれば「コダックでは、長年にわたり多くのユーザーから支持を得てきた本製品の販売継続に最大限の努力を続けて参りましたが、ここ数年における大幅な需要の落ち込みによって、処理薬品などの安定供給ならびに処理設備のサポート維持が大変難しい状況となり、販売終了の決断に至りました」と、“コダクローム64フィルム”(KR)と“コダクローム64プロフェッショナルフィルム”(PKR)の国内での販売を現在の在庫がなくなり次第終了するとしています。現在の販売状況で推移した場合、市場在庫は来年3月末頃にはなくなり、それとともに国内での現像処理も来年12月20日をもって廃止となるそうです。
▲コダクロームにはKRとPKRの2種があるが、公私ともに使うのは決まってPKRであった。

IMGP0803n.jpg改めてご紹介するまでもないでしょうが、「コダクローム」はコダックが戦前の1935(昭和10)年に発売を開始した世界最初のカラーリバーサルフィルムで、1961(昭和36)年にその改良版として登場したコダクロームⅡ(KⅡ)はその抜群の発色と粒状性、そして比類ない保存性から今もって伝説的に語られ続けています。諸河さんが本誌誌上で連載「KⅡの時代」(2003年10月号?2004年9月号)としてその卓越したクォリティーをご披露下さったのも記憶に新しいところです。
1974(昭和49)年にはコダクローム25(KM)とコダクローム64(KR)が、1984(昭和59)年にはプロバージョンのコダクローム64プロフェッショナル(PKR)が誕生し、その印刷特性の良さもあって、1980年代のプロ、ハイアマチュアの世界はまさにコダクローム一色となってゆくのです。
▲パッケージ裏面に記載されているエマルジョンナンバー。かつてはこの番号に一喜一憂したもの。(ちなみに現在出回っているKRのエマルジョンナンバー“1531”とPKRのエマルジョンナンバー“3582”はどちらも実効感度64、フィルター補正値0の「ノン」。)

コダクロームの最大の特徴は色素を形作るカプラーを現像液に加える「外式」を採用した点にあります。現在市販されているカラーリバーサルフィルムはことごとくフィルム乳剤層にカプラーを含む「内式」で、コダクロームの現像処理にはまったく汎用性のない現像処理「プロセスK-14」が不可欠です。それだけに現像設備の維持も大きな負担となり、結果として販売終了となったのかもしれません。

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コダクロームで思い出すのがその“エマルジョンナンバー”です。エマルジョン、つまり乳剤のこと。フィルムの乳剤は酒の仕込みに例えればわかり易いかもしれませんが、どんなに均一化を図ろうとしても、乳剤の「樽」ごとにどうしてもある程度のばらつきが生じてしまいます。一般にはあまり知られていませんが、プロラボと呼ばれるプロ向けの現像所では、独自の方法で市場に出回っている全ての乳剤番号のテストデータを公開しており、例えばエマルジョンナンバー「1234」は公称感度「64」に対して実効感度「50」、さらに色調はどんなフィルター(ゼラチンフィルター)で補正する必要がある…といった情報を開示しています。1980年代のPKRはこれらの情報をもとにした「ノン」(無補正)エマルジョンの争奪戦でもありました。ことに印刷を前提とした出版社にとっては他人事ではなく、かくいう弊社も「ノン」のPKRが出たと聞きつけ数百本の単位で大量に買い付けたことさえあります。
▲路面を分け入るようにクールの街をあとにする直流時代のレーテッシェバーン・アローザ線ABDe4/4 481。コダクロームにこだわっていた最後の時代のひとコマ。'93.10.13

そんなエマルジョンに一喜一憂したそんな思い出も、今となっては隔世の感があります。明るさであろうと色調であろうと彩度であろうと、はたまた“アオリ”を利かせた変形であろうと、画像処理ソフトで素人でも容易く出来てしまう昨今、71年前にルーツを持つ外式リバーサルフィルムはついに命脈尽きてしまったわけです。独特のしっとりした自然な色調、高い粒状性、そして何よりも実証済みの保存性の良さを兼ね備えたコダクローム、最後にもう一度あのF-1に詰めて使ってみようと思っています。さようなら、そしてありがとう「コダクローム」。

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