鉄道ホビダス

残されたEB10を見る。

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先日、一度見てみたいと思っていた府中市市民健康センター交通遊園に保存されているEB10を訪ねてきました。紅葉を終えた欅の枯葉がひっきりなしに舞い散る公園の一隅で、同じく保存されているD51 296の後ろに隠れるように、小さな“凸電” EB10 1の姿がありました。
▲府中市市民健康センターの交通遊園に保存されているEB10 1。同じ敷地内には青森機関区で活躍していたD51 296や都電の6191号も保存されている。'06.12.2

IMGP0761n.jpgご承知のようにEB10形は私鉄買収電機を別とすれば国鉄(鉄道省)唯一のB型電気機関車で、終生を王子駅から分岐する須賀貨物線で過ごした異色機です。思いのほか長命だったこともあって、その愛らしい姿は多くのファンの脳裏に焼き付いていたようで、『国鉄時代』(vol.5)では寺田牧夫さんが「EB10と須賀貨物線」をご披露くださっています。かく言う私はというと、親戚が付近にいた関係で子どもの頃から近辺に幾度となく足を運んでいるにも関わらず、なぜか一度もこのEB10が走っている姿を目にしたことがなく、いまさらながらそれが残念でなりません。
▲4面に付けられていたはずのナンバープレートはこちら1エンド側正面にしか残されていない。塗色はいただけないが、パンタグラフが上がった状態で展示されているのは嬉しいかぎり。'06.12.2

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▲須賀貨物線で活躍していた頃のEB10。パンタグラフは電気機関車化当初のPS11からPS13に変わっている。須賀貨物線は現在の北王子貨物駅手前から分岐し、日産化学のある須賀貨物駅まで2.5kmを結んでいた東北本線の支線であった。なお、須賀の読みは清音の「すか」が正しい。'69.12.6 王子 P:笹本健次

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▲元空気溜がぶら下がる非公式側床下を見る(左)。このあたりの床下には“鐘”が下がっていたはずだが、残念ながら失われている。右は2位側の軸受部。砂箱はかなり大きな容量のものが付く。'06.12.2

IMGP0736n.jpgところでこのEB10は1927(昭和2)年に誕生した際は蓄電池、つまりバッテリー機関車でした。当初から大日本人造肥料(のちの日産化学)の工場への貨車の出し入れを目的に開発された機関車で、須賀貨物線周辺に陸軍造兵廠や火薬廠が密集しており、「防爆」の要請からより安全性の高い蓄電池方式が採用されることになったと伝えられています。ただ手元の昭和3年「鉄道統計資料 第三編監督」によれば、大日本人造肥料専用鉄道は1926(大正15)年7月22日付けで免許、使用開始線免許動力は「蒸気」となっており、このへんの事情は解明が待たれます。
さて、電気品は芝浦製作所(のちの東芝)、機械部分は汽車会社によって製造されたこの鉄道省初の蓄電池機関車は、誕生当初は10形(10号・11号)と称されていましたが、誕生翌年=1928(昭和3)年の改番でAB10を名乗るようになり、さらに1931(昭和6)年には須賀貨物線の電化に伴って電気機関車化改造を施されることになります。つまり10形の時代はわずかに一年ほど、AB10の時代も3年ほどと、蓄電池機関車として過ごした期間はほんとうに短かったわけです。
▲横向きに座る形となる運転席。制御は電空単位スイッチ。キャブにはシンプルなコントローラーとブレーキ弁が備わるだけで、運転室内は結構広々としている。'06.12.2

ab10.jpg当初は特徴的だった正面左右の楕円形の窓は変哲のない角窓に改造され、ボンネット先端部に抵抗器室を設置したために上面に通風機が増設され、屋根上にあった前照灯は独特の枠組みに収められて庇下に吊り下げられることとなります。この辺の形態的変遷については『新ディテール・ファイル』に詳述されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
さて、生涯を田端機関区で過ごしたこの2輌のEB10ですが、須賀貨物線の廃止によって1972(昭和47)年2月付けで、国鉄機としては異例のまったく移動暦がないまま廃車処分となりました。その後いったいどういった経緯でここ府中市に保存されることとなったのかは、現地の説明看板にも記述がありませんが、生みの親の東芝ゆかりの地という意味もあるのかもしれません。
▲蓄電池機関車10形11号時代の姿。わずか1年ほどでAB10形に形式変更されているため、10形のナンバープレートを付けた写真はきわめて珍しい。(オーム社発行『蓄電池車』1932(昭和7)年刊より)

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▲国鉄工作局発行電気機関車形式図(1963年)にみるEB10形。クリックするとポップアップします。

同じ公園内に保存されている都電6191号はボランティアの皆さんの努力で素晴らしく綺麗な姿に甦っています。こちらはまた別の機会にご紹介したいと思いますが、EB10も末永くこの公園で保存されてほしいものです。

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