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「桜木町事故報告書の謎」続報。(中)

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沖田祐作さんからのお手紙によれば、この資料はお亡くなりになった市川建三さんから譲り受けたスクラップブックの中に挟まれていたものだそうです。歴史的な絵葉書の蒐集をはじめ、鉄道史研究の世界で多くの功績を残してこられた市川さんは、地道な新聞スクラップも続けておられ、なんと“桜木町事故”関係のスクラップブックだけでも2冊もあったそうです。この運輸省鉄道監督局民営鉄道部運転車輌課名で出された「櫻木町驛における電車火災事故について」をいったいどうして市川さんが入手することになったのか、その経緯は今となっては知る術もありませんが、ともかくこれまでに知られるすべての一次資料の中でもっとも早い時期に作成されたものであることはたしかです。
▲桜木町事故をめぐる3つの文書。和文タイプの謄写の中紙とみられる紙は55年の歳月ですっかり色褪せてしまっている。所蔵提供:沖田祐作

『三代事故録』をまとめるにあたって、各種の資料・文献をあたられた沖田さんは、最も早い時期の一次資料であることを重視し、これに依拠して「サハ78188」としたわけですが、編者注として「運輸省より私鉄向け警告書写?」とあえてクエスチョンマークを付けられています。これは、番号違いを考慮してではなく、この文書が運輸省から各私鉄への警告書の原本と思われるものながら、本来的意味が不明だったからだそうです。

市川さんのスクラップに入っていた文書は、日付順に「國有鐵道京濱線櫻木町驛構内の電車火災に関する総裁談」(昭和26年4月24日=当日17時)、「電車火災の場合処置について」(運輸省鐵道監督局長・4月25日)、そして「櫻木町驛における電車火災事故について」(運輸省鐵道監督局 民營鐵道部運轉車輛課・4月27日)の3種で、このうち問題の車輌番号について言及しているのは3番目の「櫻木町驛における電車火災事故について」だけです。ではいったいどうしてこの発生3日後の文書ですでに誤謬を生じてしまったのでしょうか。

jikoroku.jpg沢柳さんは本誌「桜木町事故報告書の謎」のなかで「鉄道監督局資料作成にあたり、連絡先が国鉄総裁室か広報部であって、本社の保安課・修車課ではなかったと考えられ…(中略)…どちらかの連絡ミスか記載ミス」だった可能性が高いとされていますが、まさにこの時点で取り違えが起こってしまっていたことになります。ここからはただの類推にしかなりませんが、それではいったい何が原因だったのでしょうか。お集まりいただいた沢柳さん、浅原さん、梅原さんからもいろいろな推理が提示されました。
▲1995(平成7)年に沖田祐作さんが私家版として上梓された『三代事故録』。「炭水車に立てかけてあった火掻棒が倒れホーム側に約1m突出したため、ホーム上の客十数人をなぎ倒す」(昭和28年5月13日7時55分常磐線土浦駅/毎日新聞)等々、瑣末なものまであらゆる史料から蒐集された鉄道事故記録が記載された500ページを超える労作。

まず考えられるのが単純なタイプミス。「サハ78188」と「サハ78144」の差は末尾が「88」か「44」かの違いだけです。和文タイプライターの専門職は、今で言うところの“ブラインドタッチ”が常でしたから、「8」を二回たたくところを「4」を二回たたいてしまったのでは…というわけです。皆さんにお集まりいただいた時点では和文タイプライターの文字配列がわからず、たとえば「1234」「5678」というように4文字ずつ上下に並んでいたとすると、「4」をタイプしたつもりで「8」をたたいてしまうことは往々にしてありえます。とすれば「144」は容易く「188」となってしまうわけです。ところがこの推理は根本から無理がありました。あとで調べてみると、和文タイプライターの文字盤は縦一列、手前から1234…という配列だったのです。しかも当該文書には2箇所に「サハ78188」の記載があります。2回も同じミスタッチをするとは考えにくく、どうやら原因はほかにあると考えるのが自然のようです。

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