鉄道ホビダス

チューリッヒのトラムミュージアム。(下)

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水曜夜の開館はメンバーくらいしか集まらないものと思っていましたが、19時近くになると、どこから現れたのか、ぱらぱらと見学者が集まり始めました。20人ほどの子供を連れた先生らしき人の姿もあります。近隣の学校の校外学習か何かでしょうか。メンバーの方はというと、最初にやってきた青年を含めて3人ほど。青年は軽妙な話術(といってもドイツ語なのでさっぱり内容はわかりませんが…)でトラムが動く仕組みを解説しているようで、時折子供たちのおおきな笑い声が庫内に響き渡っていました。
▲トラムミュージアムの矩形庫前に並んだ動態保存車たち。左から1909(明治42)年製の Ce2/2 176、1897(明治30)年製の旧番「1」、1900(明治33)年製のCe2/2 102。P:トラムミュージアム絵葉書より

聞けば4?10月の第一土曜と最終日曜の開館日の午後にはこれらの保存車輌を使った公開運転が行われているのだそうです。公開運転といっても日本的感覚で想像するミュージアム周辺をちょろちょろと走る類ではなく、1900年製などという超古典車が、13系統の営業路線にそのまま投入されて中央駅まで行ってしまうのです。しかもタイムスケジュールを見るとほとんど30分ヘッドの運行、つまりはこの両日の午後の13系統はほとんどが古典車での運行となるわけです。さらにふるっているのは乗務する運転士や車掌が全員往年の制服を着用していること。もちろん車掌が売る乗車券も当時のものそのまま。それはまさに走る博物館です。

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▲素晴らしいコンディションに保たれている1897(明治30)年製の旧番「1」。1960年代後半から長年かけてレストアされたのだという。'05.9.28
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▲Ce2/2 2の車内。床にこそ保護シートが貼ってあるものの、各所に徹底したレストアが施されている。'05.9.28
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▲旧番号「1」(左)とCe2/2 176(右)の運転台。手巻のハンドブレーキ以外保安機器さえないこの車輌たちが、月に2回の運転日には「営業運転」に就く。'05.9.28
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▲Ce2/2 2のサイドビュー。まさにミュージアム・コンディション。'05.9.28

それにしてもこのささやかなミュージアムはなんと生き生きとしていることでしょうか。工具を駆使してメンバー自らが車輌の保守整備を行い、歴史的資料を収集保存、展示し、公開を通して啓蒙を図ってゆく…決して規模こそ大きくはないものの、逆にそれが等身大の血の通ったミュージアムを形作っているとも言えるでしょう。ただ彼らの夢はこの小さな博物館では終わらず、将来の大規模な博物館建設に向けて地道なドーネーション集めが続いています(トラムミュージアム・チューリッヒHP)。

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▲車庫に整列した一世代前の主力1300系と1500系たち(1987年当時)。急曲線でのオーバーハングを考慮した楔形の前面デザインは最新鋭車にも引き継がれている。P:トラムミュージアム絵葉書
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▲トラムミュージアム・チューリッヒの案内リーフレット。
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行きがけの駄賃…的な不遜な動機で訪ねたこのトラムミュージアム。Wartauの電停を降りて明かりの消えている小さな車庫を目にした時は、期待はずれに落胆したものですが、その実態を知るにつけ、このささやかなミュージアムが持つ奥行き(それはきっと趣味の奥行きなのでしょう)に、言いしれぬ感動を覚えずにはいられませんでした。スタッフの皆さんに見送られて13系統に乗り込んだ後も、中央駅を目指すガラガラの車内で、この邂逅を幾度となく反芻していたのでした。

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