鉄道ホビダス

2006年5月 3日アーカイブ

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国鉄勝田駅と日立製作所水戸工場を結ぶこの路線、『民鉄要覧』によると1942(昭和17)年8月6日免許、同9月5日運輸開始と記載される歴とした“専用鉄道”です。国鉄が管轄する“専用線”ではなく専用鉄道規定に則った専用鉄道ですから、運転保安は所有者、つまりは日立製作所が独自に行い、貨物以外にも「特定人」(従業員等)の輸送を行うことが可能なわけです。
▲朝陽を浴びて専用ホームで発車を待つ7時25分発の従業員輸送列車。勝田駅跨線橋から見た情景で、画面右が国鉄構内。7時25分発は上野からの初電451Mと水戸始発の435M、上りは平始発の430Mに接続している。'79.2.16

粁程は『民鉄要覧』の免許は4.4kmながら、国鉄側の「専用線一覧」(昭和45年版=『トワイライトゾ?ン・マニュアル12』所収)によると、総延長キロ12.0kmとかなりの長さです。従業員輸送用の“旅客列車”は1キロほどで工場の門の中に吸い込まれていってしまい、工場側の乗降場は確認することができませんでしたが、外周道路から観察するに、工場構内には延々と線路が張りめぐらされており、「専用線一覧」記載の総延長12.0kmという数字が実感に近かったように思います。

さて、当初は関連会社・日立電興からやってきたナスミス・ウィルソン製1Bタンク機(旧省100)を使っていたこの専用鉄道ですが、戦後すぐに自社製の15t蓄電池機関車2輌を導入します。この水戸工場では主力産品である電気機関車のほかに戦時中は爆弾の製造も行っていたそうで、“防爆”の必要性からのバッテリー機関車導入かとも勘ぐりましたが、どうやらそうではなく、単純に戦後の逼迫した燃料事情にともなう蓄電池機関車ブーム(?)にのってお家芸である電気機関車を新製したに過ぎないようです。

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常磐線沿線では荒川沖の陸上自衛隊線(霞ヶ浦通運)にもバッテリー機関車が見られましたが、客車列車を牽引するとなると、宮崎交通鉄道線なきあとは西武山口線くらいしか例がなく、極めて珍しい例でした。ただ、その従業員輸送がいつ頃から始まったのかは実のところよくわかりません。白土貞夫さんの『日立電鉄の75年』(RM LIBRARY 64)によると、日立電鉄の単車ハフ5(ハフ1も?)が戦後、水戸工場専用鉄道の従業員輸送用に転じたとあり、これが嚆矢なのかもしれません。
▲1948(昭和23)年製とこの時点でも結構な老体だったバッテリー機関車にも番号はなく、2輌の客車を挟んでプッシュプルの固定編成となっていた。ただ、プッシュプルとは名ばかりで、機回しの手間を省くだけの編成である。なお機関車は晩年はいわゆる日立カラーに塗られていた。'79.2.16

中川浩一さんの『茨城の民営鉄道史』(1981年/筑波書林)によると、続いて常総筑波鉄道から単車2輌を購入、日立のハフ5に続いてハフ6・7とし、これらの客車で編成する通勤列車に「むつみ号」とトレイン・マークまで付けたと記述されています。しかしさすがに単車を連ねた「むつみ号」では時代にそぐわなくなり、1968(昭和43)年に廃車となった東急電鉄デハ3209・3210を購入して置き換えを実施しました。それにしても、少なくともこの時点までは木造単車を連ねた「むつみ号」が走っていたわけで、それはそれで驚きです。

hitachimito2137n.jpg東急から来たデハ3209・3210はしばらくそのままの姿で使われていたそうですが、車体が老朽化したのか、自社工場で車体を新製して載せ変えを行った“結果”が今回ご覧に入れている奇妙な客車です。前出の中川さんの『茨城の民営鉄道史』には「警察の機動隊輸送車もかくやと思われる不細工な改造」とまで書かれてしまっています。
▲かろうじて種車デハ3200の面影を留める台車が見えるが、上回りだけだとプレハブ小屋にしか見えない奇妙な「客車」。しかも無番! '79.2.16

この2輌の“機動隊輸送車”、ついに車輌番号さえ付けてもらえず、1988(昭和63)年に同じ東急から来たデハ6003・6104に任を譲って解体されたと聞きます。残念ながらデハ6003・6104に変わってからのこの従業員輸送列車は撮影する機会がなく、結局1993(平成5)年9月20日を最後に、従業員輸送列車そのものが廃止されてしまいました。

結局この専用鉄道を撮影に出かけたのは3回(うち1回は運悪く工場休業日で運休)だけ。行きにくい早朝時間帯、しかも形式写真など撮りようもない環境ではありましたが、今さら思えばあの“機動隊輸送車”の車内などなぜ撮っておかなかったのかと悔やまれてなりません。

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