鉄道ホビダス

2006年4月 9日アーカイブ

三峰石灰、桜咲く。

busyuunakagawa1142.jpg東京の桜ははやくも満開を過ぎ葉桜となりつつありますが、この季節になると思い出すのが、秩父鉄道の武州中川にあった三峰石灰のエンドレス軌道です。武州中川駅と工場の間1キロほどを結ぶこの軌道、機関車がいるわけでもなく、四半世紀前の感覚からすれば、とりたててどうこう言うほどのものではありませんでしたが、他の撮影の合間や、果ては忘年会の行き帰りなどに何回となく訪れていました。そのなかでも1979(昭和54)年3月に訪れた時は、期せずして桜が満開で、今もって強く印象に残っています。
▲満開の桜の下、三峰石灰のエンドレスが貨物ホームからのびてくる。背後に見えるのはデキ105。現在では貨物列車は影森以遠には来ない。'79.3.31

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不思議なことに、桜の木は花の季節以外はまったく意識されないもので、この武州中川の見事な桜も、それまでの何回かの訪問の際はまったく気付きませんでした。それだけに見慣れた貨物ホームの先に、まるで軌道に覆いかぶさるように咲き誇る桜を発見した時は思わず歓声を上げたほどです。
▲満開の桜の下を抜け、駅から桑畑の中を延々と続くエンドレス軌道は地元の人たちの生活路でもあった。'79.3.31

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▲武州中川駅構内南側の側線が三峰石灰の貨物ホーム。木造の上屋に目をこらしてみると軌道らしきものが…。'79.3.31
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▲軌道は貨物ホーム直前でほぼ直角に曲がって上屋の中に入ってゆく(左)。写真右はホーム荷捌き場内の様子。'79.3.31'79.3.31
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▲貨物ホーム端に設けられたエンドレスの緊張装置。ここまで来たトロはクリップを外されて手押しで上屋の中の荷捌き場へ押し込まれる。'79.3.31

この三峰石灰工業(株)の軌道は、「エンドレス」と呼ばれる曳索鉄道で、同じ曳索鉄道でも「インクライン」(ケーブルカーなど)がその名のとおり傾斜地に設けられるのに対して、平地に敷設されているのが特徴です。基本的には輪(エンドレス)になったロープをぐるぐる回転させ、そのロープに付けた「クリップ」と呼ばれる締結金具に台車を連結して運搬する方法で、駆動用巻機以外はほとんど設備費が掛からないのが大きなメリットといえます。その反面、基本的に直線区間でないと使えない、必ず複線にしなければならないなどの制約も多く、全国的にもそれほど多く見られた方式ではありませんでした。関東地方では近年まで残っていた奥多摩工業曳索鉄道氷川線(氷川?倉沢間4850m/軌間762mm)が知られていましたが、手もとの資料(『鉱山読本(採鉱編・鉱山の運搬)』1964年)によれば、全国のエンドレスは1961(昭和36)年度時点でも20台(うち7台は坑内)しかありません。やはりかなりレアな軌道だったのです。

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三峰石灰の軌道は「下綱式」と呼ばれる方式で、軌道中央部に曳索(ロープ)を通す方式です。工場内に設置された電動エンドレス巻機によってこのロープをぐるぐる回すわけですが、上り線と下り線の荷重の掛かり具合によってロープの弛みが出るのを防ぐために、駅側に緊張装置と呼ばれるテンショナーが設けられていました。恐ろしい(?)のは途中に何箇所かあった踏切で、スリット状に溝が切ってあるとはいえ、運転中は踏切の中をロープがかなりのスピードで動いるわけです。
それにしてもたいした距離でもないのに、なにゆえわざわざエンドレス軌道を使う必要があったのかは首を傾げざるをえません。
▲「踏切注意」の大看板を掲げた第4種(?)踏切。溝が切ってあるとはいえ、運転中は始終ロープが動いているのだから結構怖い。'79.3.31

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来年の桜の季節も…と思っていながら、結局、時期を逸してしまい、そのうちに軌道そのものが撤去されてしまいました。あの桜の下で行き交うエンドレスを見ながらゆっくりと一日を過ごせたら…いまやかなわぬ夢と知りながら、この季節になるとつい思い出してしまうのです。
▲桑畑の中を1キロほど進むと三峰石灰の中川工場(右)に到着する。右端に見える小屋の中に電動機によるエンドレス巻機が入っている。'79.3.31

なお、この三峰石灰大達原鉱山のトロのうちの1輌は、広田尚敬さんに引き取られ、広大なお庭で、ハーブ研究家として国際的に高名な奥様のハーブに囲まれて今も健在です。

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