鉄道ホビダス

アイルランドに欧州最大のナローゲージ網を訪ねる。(10)

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第十回:実は見納めだったレンズボーラァ軌道。
デラッハン・ボグ(Derrahan Bog)と呼ばれるメイン・フィールドに続く“本線”は、とてもナローとは思えないほど整備され、市街部では交差する道路もほとんどが立体化されています。16?の容量を持つピート・ワゴンが標準列車で14輌、重量にすると70?100tの積載量の列車が続行で次々とやってくる様はまさに圧巻です。

どこかで見たような状況だと思い返してみると、そう、住友セメント栃木工場の唐沢原石軌道を彷彿させるのです。唐沢軌道も、2’6”ゲージの複線軌道を連接のオアカーを連ねたDLがひっきりなしに往復していました。そう思うと、石灰で真っ白になりながら唐沢軌道を追いかけた日々が、遥かアイルランドの地で、あの「会沢食堂」の煮込み定食の味まで伴って鮮明によみがえってくるのでした。
▲レンズボーラァ発電所のヤードに詰めかけたピートトレインの列。盈車と空車が入り乱れ、よくぞこれで発着ができるものだと関心する。'02.10.22

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ところで、昨日のブラックウォーターワークスと違い、今日のレンズボーラァ発電所は何の事前アポイントも取っていません。跨線橋から撮影している限り、通り過ぎる列車の運転士は皆にこやかに手を上げてフレンドリーそうですが、発電所構内となると果たしてどうでしょうか…。ちょっと不安ではありますが、ここまで来て引き下がるわけにはゆきません。結局、腹を決めたのは「正面突破」。正門の守衛所で身ぶり手ぶりを交えてこちらの意図を伝え、何とか交渉成立。広大な発電所構内のいわばバックヤードに当たる操車場へと車を進めます。それにしてもこのレンズボーラァ火力発電所、とてつもない規模で、ようやく軌道のある裏手にたどり着き、ともかく職員駐車場にレンタカーを停めることにしました。
▲ディスパッチャールームからプラント側をのぞむ。チップラーでの取り卸し待ちの盈車列車が数珠つなぎとなっている。'02.10.22

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機材を背負ってヤードへと向かいますが、とにかくあたり一面“列車の海”状態。それもどの列車が急に動き出すかわからず、不用意に立ち入るのは危険です。そうこうしているうちに、乗務を終えた運転士らしき人が声を掛けてきてくれました。どうやら先ほどの跨線橋から撮影していた時に眼下を通過した列車を運転していたらしく、「列車の写真を撮りたいのか」というようなことを聞いてきたのです。これは渡りに船とばかり構内の撮影をお願いすると、ヤードの中心にある管制塔のような建物に連れていってくれました。どうやらここはディスパッチャールーム兼乗務員詰所のようで、入口には機関車のキーがずらりと並び、日本風に言えば「点呼」のようなことが行われています。ディスパッチャー(運行管理者)の周囲では運行中の機関車からの無線が飛び交い、この建物を見ているだけでも、いかにこのレンズボーラァ軌道網が大規模かが伺い知れます。
▲チップラー(回転式取り卸し装置)はこの16?ワゴンを1輌まるごと360度回転させてピートをコンベア層へと落とす。'02.10.22

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さすがにここまで写真を撮りにくる物好きはそれほどいないらしく、なおかつ日本からわざわざ来たと知ると大歓待。控え室の乗務員たちもがやがやと出てきて一斉にいろいろと説明を始めるのですが、もともとが難解なアイルランド英語にくわえて脈略なくしゃべられるのでこちらはまったくお手上げ。早々にその場を辞して再びヤードへと向かいました。
▲レンズボーラァのフューエル・トレインを担当するLM247。1965年のワゴンマスター12t機で、ラジエータシェルとキャブにはハンスレー、ボンネットサイドにはワゴンマスターのエンブレムが付く。'02.10.22

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結局、この日一日ではこのレンズボーラァ軌道の全貌はおろか、アウトラインさえ把握することはできず、ただただとんでもない規模の3フィート軌道網だということを体感できるにとどまってしまいました。これは機会を見て是非とも再訪したいものと思いつつ発電所を後にしたのですが、実はその夢は永遠にかなわないこととなってしまったのです。

帰国後一年半余りが経った2004年春、英国の高名なインダストリアル・ナローゲージ・エンスージャストであるスティーブ・トマソンさんのレポートに目が点になってしまいました。あのレンズボーラァ軌道が廃線になったというのです。添付された写真は、前回掲載した発電所の煙突をバックにカーブを切る列車を後追いで撮影したのとまったく同じ場所。すっかり錆びついてしまった軌道からは、とてもあの日の活況を想像することはできません。なんでも新発電所完成に伴ってレンズボーラァ旧発電所は2004年3月31日をもって廃止され、ピートトレインもその日の14時30分にデラッハン・ボグから到着した便をもって終了したとのこと。さらに驚くべきことには、このレンズボーラァと同じような状況(similar fashion)で、新発電所完成によって同年2月にシャノンブリッジ発電所も閉鎖、ブラックウォーター地区の軌道網も激減したと報告されています。何とこの2日間をかけて私が見てきた欧州最大のナローゲージ網は、わずか2年後には音を立てて崩れ去っていってしまったわけです。
▲キャブ内にはボード・ナ・モナの内規らしきエッチングのインストラクション・プレートが貼ってある。「BORD NA MONA Instructions to Locomotive Drivers」とあるが、読んでみると中身は「飛び乗り禁止」やら始業点検の際はエンジンオイルのレベルチェックとラジエータ水のチェックを忘れずにだとか、さらにはクラッチ操作は乱暴にしない…等々、たわいのない内容ばかり。'02.10.22

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