鉄道ホビダス

アイルランドに欧州最大のナローゲージ網を訪ねる。(3)

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第三回:親亀の背中に子亀をのせて…。
なかなか話が本論のアイルランドにたどり着きませんが、せっかくですので今日はアンバレー・ミュージアム・インダストリアル・レイルウェイ・コレクションの中から、世にも奇妙な蒸気機関車をご紹介することにしましょう。
▲ギネス・ビール23号機の異様なサイドビュー。とても蒸気機関車とは思えないスタイルで、しかもその大きさたるやさながらライブスチーム。'02.10.20

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二十数年前、例の『BROCKHAM MUSEUM』というガイドブックの1頁目に出ていたのがこの機関車でした。1966年にアイルランドの首都ダブリンにあるギネス・ビールの工場内で撮影されたとクレジットのある写真には、“converter bogie"とキャプションがありますが、いったい何がどうなっているのかさっぱり理解できませんでした。この長年の謎がアンバレーの地を訪れて現物を目にすることによってようやく氷解したのです。

この1'10"(559mm)ゲージの超小型蒸気機関車はギネス・ビール構内で使用されていたもので、解説によればサムエル・ジオゲッガン(Samuel Geoghegan=アイリッシュだけに正確な発音は?)なるエンジニアが発案したものだそうです。ダブリンのギネス・ビール工場は丘の傾斜地にあり、ホップなどの原料は主に3つのレベルに貯蓄されていたといいます。この3レベルを結んで原料を効率的に輸送するためにジオゲッガンが考えたのが1'10"(559mm)ゲージの軌道です。実に39ものスパイラル・トンネルを穿った急勾配・急曲線の軌道は類例がなく、ことに狭隘かつ曲線のトンネルに対応する車輌限界は既存の機関車を受け付けるものではありませんでした。そこで彼は専用の機関車の開発に着手し、シリンダーやバルブギア類をボイラー上に載せた舶用蒸気機関のような二層建て蒸気機関車を完成させたのです。これによってホイールベースに対するオーバーハングが極端に短く、かつ全幅も極限まで狭めた専用機が実現しました。
▲フロントビュー。たしかによくよく見れば煙突と煙室扉があり、こちらが前だということがわかる。'02.10.20

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ダブリンのウイリアム・スペンス(William Spence)社コークストリート工場で誕生したこの奇妙な機関車は、ジオゲッガンの目論見通りの成果を収めることになりますが、数奇な運命はこれからが本番です。ギネス・ビール工場には国鉄の側線も入っており、この側線で使用する機関車の必要も生じてきました。ちなみにアイルランドのスタンダードゲージは5'3"(1600mm)ゲージですが、わざわざこの側線用機を新製するのももったいない(?)ということで鬼才・ジオゲッガンが考えたのがコンバーター・ボギー(converter bogie)、つまりは「親亀の上に子亀をのせる」方式です。スペンス・ロコがすっぽりと収まるコンバーター・ボギーなる台車を造り、そこに専用ホイストでのせることによって1'10"ゲージの超小型機を5'3"ゲージの本線機(?)に化けさせようというのです。古今東西鉄道技術者数知れずといえども、これほど珍奇なことを思いつく御仁もおりますまい。かくしてスペンス・ロコはアナログなデュアルゲージ・ロコとして1950年代まで活躍を続けたそうです。
▲こちらはキャブ(?)側。かろうじて焚口戸が見える。右にわずかに見える赤いエンドビームがコンバーター・ボギー。'02.10.20

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現在アンバレーで保存されているのはスペンス・ロコが23号機、コンバーター・ボギーが4号機(号台車?)で、専用ホイストとともにギネス・ビールがブロックハム・ミュージアムに寄贈(アンバレー入りは1982年)したものだそうです。ほかにも何輌かの仲間がイギリスとアイルランドに保存されていると聞きます。残念ながら資料には記載がありませんでしたが、この親亀子亀、いったい何輌が棲息していたのでしょうか?
あれからギネスの黒ビールを呑むたびに、この世にも不思議な蒸気機関車のことを思い出してしまいます。
▲5'3"ゲージ用「コンバーター・ボギー」(左)とスペンス・ロコをコンプリートした姿(右)。ギヤード・ローラー(?)を介して駆動するとあるが詳細は不明。いずれにせよ、とても常識では考えられない発想だ。(『BROCKHAM MUSEUM 』より)

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