趣味の総合サイト ホビダス
 
 

レイル・マガジン編集長自らが作る編集日記。

2005年11月19日

この一冊。(1)

『日本鉄道紀要』(小川一眞/1898年)を嚆矢として今日まで、鉄道を趣味の視点で捉えようとした出版物はおびただしい数にのぼります。とりわけ近年は鉄道書の出版ブームとも呼べる状況で、自戒を込めつつその出来も玉石混交の様相を呈しています。一方で時代を画した“名著”が忘れられつつもあり、今回から何回かに分けて、極めて恣意的な選択ながら私の選んだ「この一冊」をご紹介してみたいと思います。当然ながらすでに絶版になったものが多く、かつご同業他社の出版物を勝手に批評する非礼はあらかじめご容赦ください。

syousi1.jpg
臼井茂信『国鉄蒸気機関車小史』(1956年)
さて、第1回は師と仰ぐ臼井茂信さんの名著『国鉄蒸気機関車小史』(鉄道図書刊行会)です。初版発行は1956(昭和31)年6月15日。『鉄道ピクトリアル』誌の創刊や「鉄道友の会」の発足など、すでに時代は戦後の鉄道趣味の隆盛期を迎えつつありましたが、未だに国鉄の蒸気機関車全形式を総覧できるエンサイクロペディアは存在していませんでした。そんな時代に登場し、まさにバイブルとして長年多くの趣味人に愛されたのがこの『国鉄蒸気機関車小史』です。

“まえがき”で臼井さんは「いまゝでの刊行物で取扱われてきた解説は、主要なもの、あるいは特定のものに限られ、全形式にまでおよんでいませんから、なにか落丁した事典でもたよりにしらべをする感が深いようです」と書かれておられ、形式1からD62(D61はまだない)までを簡潔ながら網羅したこの本の意義を説いておられます。

活版印刷の誌面は今日的レベルではお世辞にも良いとはいえず、ことにところどころに挿入されている名刺2分の1ほどの写真は、紙質もあってかなり見にくいものです。しかし、どれほど多くの“次世代”がこの本によって胸ときめかせ、新たな発見を求めて全国へ散っていったことでしょう。車輌史の研究のみならず、この通称「小史」が1960年代の鉄道趣味に与えた影響は計り知れないものがありました。ちなみに初版上梓時の臼井さんは36歳。その年齢と業績を並べると、いたずらに馬齢を重ねるわが身に暗澹たる気持ちとなります。

syousi2.jpg
昭和40年代に入ってからも「小史」の人気は高く、とりわけその後の成果を加味した改訂版を待ち望む声は多かったのですが、すでに次なる切り口である「機関車の系譜図」執筆に没頭されていた臼井さんにとって、「小史」の改稿は棚上げ課題となり、ご承知のように結局実現することはありませんでした。ただ、実は晩年の臼井さんはこの「小史」改訂版に着手しておられたのです。主のいなくなった書斎机の正面の棚には「改稿 国鉄蒸気機関車小史(草稿)」と書かれたバインダーに、ワープロでびっしりと執筆された新原稿が115形まで遺されていました。
B5版上製本182頁470円(初版)。(写真は1961年の第3版)