鉄道ホビダス

12年ぶりのライン河上流工事事務所。(第1回)

DH000049.jpg
第1回:プロローグ
先週一週間お休みをいただいき、12年ぶりに「ライン河上流工事事務所」に“こもって”きました。唐突に「ライン河上流工事事務所」などと言われても、よほど捻くれたナローファンでもない限り、いったい何のことかまったくお分かりにならないでしょうから、まずはこの「ライン河上流工事事務所」なるものの説明から始めることにしましょう。
▲垂れ込めた雲間から、さながら後光の如く、今日初めての陽光が河原を射る。昨日取り残された木製ダンプが1輌、ポツンと一番列車を待っていた。'05.9.26

DH000028.jpg
スイスアルプスのトーマ湖に源流を持つ「ライン河」は、総延長1320kmに及ぶヨーロッパ屈指の大河ですが、その流れは実に複雑です。まずこの源流域からスイスとオーストリアの国境を抜けてボーデン湖までを「アルプスライン」、ボーデン湖から西進してスイスのバーゼルまでを「高ライン」、バーゼルから北に向きを変えて、フランスのアルザス地方とドイツのシュバルツバルトに挟まれたライン地溝帯と呼ばれる低地をドイツのマインツまで北進する流域を「上ライン」、さらにボンまでのローレライに象徴される狭隘な渓谷を「中ライン」、そこからオランダを縦断して北海に注ぐまでを「下ライン」と大別されています(小塩節『ライン河の文化史』講談社学術文庫)。
▲12年間の思いを果たし、ようやく出会えた“本線”列車。まさに“シンプルトロリー”と呼ぶに相応しい弛んだトロリー線を手繰るようにポール電機がゆく。'05.9.26

IMGP3994.JPG
このように大きく蛇行を繰り返す河川だけに、太古の昔からその氾濫は流域に大きなダメージを与え続けてきました。さらに近代に入って船舶による交易が盛んになると、おびただしい数の運河が開鑿され、氾濫原も利用が進んで氾濫原としての機能を期待できなくなってしまいました。そこでますます重要度を増したのが河川改修による治水です。「上ライン」を筆頭に、各流域で大規模な河川改修が行われていますが、そのひとつがスイスとオーストリアが共同で行っている“ライン河上流工事事務所”です。正式には「ライン河国際改修事業」と呼ばれ、「アルプスライン」が巨大な扇状地を形成してボーデン湖に注ぐまでの治水を担当しています。このボーデン湖が天然の流量調節機能を担って「高ライン」の制御役も担っているわけで、この関係は利根川水系における「赤麻遊水地」と似ているようにも見えます。赤麻遊水地といえば、古くからのナローファンには印象深い、建設省関東地方建設局「利根川上流工事事務所」の河川改修用軌道が縦横無尽に敷き巡らされていた所(『トワイライトゾ?ン・マニュアルⅠ』所収)で、何か因縁めいて同じようなシチュエーションで軌道による河川改修工事を行っていることから、私はこのスイスとオーストリア国境の改修を勝手に「ライン河上流工事事務所」と名付けました。

DH000161.jpg
実は今から12年前に一度だけこの「ライン河上流工事事務所」の軌道を訪ねたことがあります。すでに冬篭りの準備に入っていた軌道に列車の姿はなく、事務所を訪ねると一瞬「この東洋人は何しに来たんだ」といった顔をされたのを鮮明に覚えています。それでも幸い事務所長は英語を理解する方だったため、はるばる機関車を見に来たことを告げると、てきぱきと指示を出して庫内から何輌かの機関車を引き出してくれました。その時以来、いつの日かもう一度この軌道の全貌を確かめてみたいと思い続けてきましたが、ようやく今回そのチャンスが巡ってきたというわけです。

1988年にスイスの出版社から関連書が発行されていますが、現状とはかなり乖離しており、各国のウェッブ上にもこの軌道に関する詳細なレポートはほとんどありません。それだけに行ってみなければどうなっているものやらさっぱりわからない怖さと、昨今の国内ではなかなか体験することのできない、未知の状況を自分の足で確かめられる誘惑を胸に、単身現地へと向かったのです。
▲決壊した堤防の状況。本来のライン河はラインの曲がり角を意味するスイスのライネック方面に流れていたが、この上流工事によって直線の放水路でボーデン湖に注がれるように改修された。(工事事務所提供)

DL000164.jpg
1日目は「わざわざ日本からこれを見に来たのか」と驚かれ、2日目は「今日も来たのか」と笑われ、3日目には「えっ、まだいるの」と呆れられ、4日目には「本当は何かの調査か?」と疑われ、5日目には「もうどうにでも好きなようにしな…」と突き放されるまでの、5日間にわたる「ライン河上流工事事務所」レポート本編は明日からスタートです。一部(本当にごく一部でしょうが…)の方には乞うご期待です!
▲この上流改修工事は実に19世紀末から脈々と続けられている。蒸気駆動のラダー・エキスカベータの前で待機するのは1897年製クラウス機。後方の木製ダンプが現在使用されているものとまったく同タイプなのも驚き。(工事事務所提供)

レイル・マガジン

2005年10月   

            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
「編集長敬白」が携帯電話でもご覧になれます。下記アドレスもしくはQRコードを読み取ってアクセスしてください。
http://rail.hobidas.com/blog/
natori/m/

ホビダス・マーケット新着MORE

  • 俺がイル
ネコ・パブリッシングCopyright © 2005-2018 NEKO PUBLISHING CO.,LTD. All right reserved.