お薦めの新刊『十勝の森林鉄道』。

十勝文化会議郷土史研究部会員で元中札内村文化財専門委員をお務めだった小林 實さんがこのたび『十勝の森林鉄道-森とともに生きた幻の鉄路を捜(さが)して』を自費出版(発行:森林舎/A5判304頁)されました。小林さんは御年84歳。失礼ながら鉄道史研究の分野ではこれまで存じ上げなかった方ですが、その著書を拝見してあまりの内容の深さに驚愕いたしました。
小林さんは1927(昭和2)年11月に中札内村にお生まれになり、以来、戦前戦後を通して地元で農業に従事されておられましたが、1978(昭和53)年にトラクターの事故で右腕を切断、一年近くにわたる入院を強いられることになります。そんな時、ふとしたきっかけで明治25年発行の古地図を手に入れ、その標茶付近の山中に鉄道表記を発見したのがすべての出発点だったと述懐されています。

▲第1章冒頭の十勝線路網図。本書がとり上げる各線を図示したものだが、その多くはこれまでほとんど知られていなかったもの。 (『十勝の森林鉄道』より)
「地下鉄に電車をどうして入れるのか」(中略)しかしそれどころでは無い、明治10年代の末期(20年開通)になぜ、だれが、何の為に、どうやって...と(前書より)。その思いが小林さんを地元・十勝の鉄道史研究に駆り立てたのだそうです。以後、郷土史や地元資料を悉皆調査されるとともに、膨大なオーラルヒストリーも記録されて、今回、まさに満を持しての上梓となりました。

▲幕別町の新田帯革(ベルト)が敷設した自社山林からの原材料搬出軌道「止若(やむわっか)馬鉄」。途中にはインクラインもあったという。 (『十勝の森林鉄道』より)
書名は『十勝の森林鉄道』と森林鉄道が前面に出てはいますが、本書の構成は以下のように、十勝地方で使用された軌道全般を8章に分けて解説しています。
1:木材搬送の馬鉄・軌道
2:鉱業・殖民軌道ほか
3:十勝川新水路掘削と築堤工事に使われた軌道
4:中小河川の工事に活躍した軌道
5:河川工事とその他に使用された軌道
6:足寄森林鉄道
7:陸別・斗満森林鉄道
8:斗満。音更・十勝森林鉄道
補録:まぼろしの北海道製糖の軌道2線、中村組馬車鉄道と王子専用鉄道

▲札内川川西築堤工事には自重5tと非常に小型の蒸気機関車も用いられた。一見コッペル風に見えるが、日本機械車輌工業(アーカイブ「千歳鉱山の"双合くずれ"」参照→こちら)や日国工業あたりの匂いを感じるこれまで未見の機関車である。 (『十勝の森林鉄道』より)
本書によれば十勝地方の最初の軌道は1893(明治26)年。北海道集治監十勝分監建設用の木軌道(のちに鉄軌道)が十勝川~分監建設地に敷設されたのが嚆矢だそうです。この十勝分監をはじめ、本書にはこれまで鉄道史の中ではまったく触れられることのなかった多くの軌道が取り上げられており、十勝地方という限られたエリアながら驚愕の内容と言っても過言ではありません。
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▲本論ともいえる森林鉄道に関しては詳細な線路図はもとより、運材台車の詳細図なども収録されており、模型ファンにも歓迎されるに違いない。 (『十勝の森林鉄道』より)
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本題の森林鉄道関係については、帯広営林局が1966(昭和41)年に発行した書籍『森林鉄道』を基礎資料としておられるようですが、この本自体ご覧になった方はほとんどおられないはずで(...かく言う私もコピーのみ)、支線にまで及ぶ沿革や車輌の詳細など、森林鉄道に興味をお持ちの方にとってはまたとない資料となりましょう。

▲足寄森林鉄道、トマム(斗満)森林鉄道と陸別森林鉄道は最も力を注いで詳述されている。初出の写真も少なくない。 (『十勝の森林鉄道』より)
巻末には3頁にわたって参考文献が列記されていますが、驚くべきはいわゆる趣味書の類がまったくない点で、わずかに小熊米雄さんの『日本における森林鉄道用蒸気機関車について』(アーカイブ「この1冊」参照→こちら)が目につく程度です。一次資料と地元文献を中心にこれだけの著作を纏め上げられたことにあらためて敬意を表するとともに、私たち鉄道趣味の側も、まだまだ未開の地平が切り拓けることを自戒を込めて気づかされた思いがいたします。
なお、本書は自費出版のためISBNコードがなく、道内の春陽堂書店(☎0155・30・7112)、サッポロ堂書店(☎011・746・2940)のみの取り扱いとなっていますが、東京・神田の書泉グランデさんにお願いして、限定数ながら現在開催中の私の推薦図書フェア(→こちら)に加えさせていただきました。都内では唯一、書泉グランデ6階で現本をご覧になったうえでご購入(頒価2200円)いただくことが可能です。
※明日は不在のため、小ブログは休載とさせていただきます。







