鉄道ホビダス

北ドイツのナローを巡る。(8)

第8回:遅かりし"Schulp"。

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▲遅かりし! 氷雨そぼ降るヤードには役目を終えたピートワゴンたちが横倒しになって最期の刻を待っていた。'10.9.20 Schulp
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バート・ドーベラン、リューゲン島とバルト海沿岸部に残る蒸機ナローの"表敬訪問"を終え、いよいよ本来の目的であるインダストリアル・サイトへと向かいます。まずは今回の旅の発端でもあるターフ軌道へ...。

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▲今回訪れたSchleswig-Holstein州の2ヶ所のターフ軌道。
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ターフ(Torf)とはドイツ語で「泥炭」の意。英語ではピート(Peat)と呼ばれ、ミズゴケなどの有機物が堆積し、最終的に石炭となる遙か前の炭素含有量の少ない状態のものを言います。石炭化は泥炭→褐炭(亜炭)→瀝青炭→無煙炭と進行しますので、泥炭は燃料としては決して良い状態ではありませんが、欧州各国では古くから暖房用に用いられてきました。さらに北欧やアイルランドでは火力発電用として大規模に採掘が行われており、アイルランドで活躍する総延長1,500㎞にも及ぶナロー網もこの泥炭運搬用です(アーカイブ「アイルランドに欧州最大のナローゲージ網を訪ねる」参照)。

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▲長年この軌道を支えてきたエンジニアの手によって、再生資源となりそうな金属部が次々と外されてゆく。空き地と化したヤードに虚しい金属音が響く。'10.9.20 Schulp
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北ドイツにはいまだに20か所を超えるターフ軌道が存在すると言われていますが、近年、環境保護の観点から泥炭の採掘が制限されてきており、一部地域では2012年に採掘が禁止されてしまうとの説もあります。そんな状況ですから、とにかく現地に行ってみないことには動いているものかどうかさえわからず、毎度のことながらなんともリスキーな現地入りとなりました。

101123n008.jpgまず狙いをつけたのはハンブルクの北150キロほどの田舎町Schulp(シュルプ)にあるという小さなターフ工場(Torfwerk Anton Gunter Meiners,Schulp)です。北ドイツに残るターフ軌道も大規模なところは急速に近代化が進み、使用している車輌も現代的な"新車"ばかりとなってしまっている中で、このSchulpは珍しく半世紀近く前のDIEMA製DLを使い続けています。しかも被牽引車であるピートワゴンも木製の好ましいタイプとあって、最初の訪問地に選んだのですが、実はその日のうちに北海側に抜けねばならないため、その道中という利便もありました。
▲ふと奥に目をやるとなにやら"ご同業"らしき人影が...しかも日本人? '10.9.20 Schulp
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昨日までと打って変わって天気は雨。しかも気温は5℃ほどしかなく、凍えるような寒さです。グーグルマップを頼りにおよそ観光地とはほど遠い田舎町を進んでゆくと、町外れにそれらしきヤードが。しかしどうも様子が変です。大量のピートワゴンが横倒しになっており、しかも近づいてみると何やら解体作業の真っ最中ではないですか。「遅かった!」
がっくり肩を落としながら目をこらすと、彼方にファンらしき人影...しかも日本人らしき人影が。えっ、木村さん? この日北海沿岸の駐車場で落ち合おうと連絡を取り合っていたベルリン在住の木村右史さんではないですか。なんという偶然。蛇の道は蛇とは言うものの、まさかよりによってこんな所で再会しようとは思ってもみませんでした。

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▲ピートワゴンの解体が進むヤードの片隅で置き去りにされていたDIEMA製DS14形DL。この工場で使用されていた4輌のディーマはいずれもキャブレス。'10.9.20 Schulp
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▲フィールドからの撤去を終えてうず高く積まれた軌匡(左)。右は取り卸し設備で、前方にはすでに草むしてしまったフィールドへの本線が見える。'10.9.20 Schulp
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木村右史さんは高名なインダストリアル・デザイナーで、かれこれ30年あまりベルリンでお仕事をされておられます。もちろん生粋のナローゲージ・ファンでもあり、今回の訪独に際しても数々のリサーチとアドバイスをしてくださっています。ここまでは言葉も不自由な一人旅でしたが、木村さんと合流したとあってはまさに百人力です。

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▲歴史を感じさせるバックヤードの機関庫。煉瓦造りの4線庫の扉を開けると、取り残されたディーマの後姿が...。'10.9.20 Schulp
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さっそく木村さんが尋ねてくださったところでは、やはりこのSchulpも環境問題から操業を続けられなくなり、昨年で採掘を中止したとのことでした。すでに土地は売却されてしまっており、ちょうど最後の残務整理の最中だそうで、恐らく今頃は工場もろとも更地と化してしまっているに違いありません。

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▲庫内に残されていたのは1957(昭和32)年製と4輌のうちで最古のDL8形(2t・10PS/製番2051)。イグニッションキーも差されたままになっていたが、すでにバッテリーは上がってしまっていた。'10.9.20 Schulp
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この付近のターフはかつては暖房用として需要があったものの、1970年代以降は急速に衰退し、一時は事業として成り立たなくなってしまう状態にまで陥ってしまったと言います。それが再び盛り返してきたのが、何と園芸用の需要、いわゆるピートモスでした。ここSchulpで採掘されたターフは遙か日本にまで輸出されていたそうで、ひょっとすると近所のホームセンターに並んでいたピートモスも、この軌道で運ばれたものだったのかも知れません。

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