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“ビネガーシンドローム”感染拡大中。

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▲ビネガーシンドロームを発症したネガ。強い酢酸臭を伴ってワカメ状に湾曲し、乳剤面の膨潤も見られるが、この段階であればまだまだ充分にプリントやスキャニングが可能。

昨年末に発売した広田尚敬さんの写真集『昭和三十四年二月 北海道』はおかげさまでたいへんな好評をいただいていますが、編集作業中にショックな出来事がありました。6?7年前にお預かりした際はとりたてて異常のなかった該当ネガが、今回あらためてお借りすると、例の“ビネガーシンドローム”に冒されつつあるのです。

100116n2985.jpgモノクロネガフィルムの加水分解による劣化、いわゆる“ビネガーシンドローム”についてはこれまでにも何回かお伝えしてまいりましたが(アーカイブ「“ビネガーシンドローム”警報発令中!」参照)、『国鉄時代』をはじめ、日々、皆さんから歴史的ネガをお預かりしている編集現場としては、ここ数年で“発症”する事例が急増しているというのが実感です。あらためて整理すると、“ビネガーシンドローム”とは、トリアセテートをフィルムベースとする昭和30年代以降の35ミリモノクロフィルムが加水分解によって急速に劣化するもので、硬化と酸化、また乳剤面の溶解等の症状があいついで起こります。発症初期には酢酸臭とともにフィルムベースがワカメ状に湾曲する程度ですが、症状は急速に進行し、最終的には硬化したフィルムはストロー状に丸まって広げることさえ困難となってしまいます。こうなると、プリントはおろかスキャニングすることさえ困難となってしまい、しかもたちの悪いことにこの症状は急速に“感染”してしまうのです。
▲乳剤面がタール状に変質し、パーフォレーション部が引きつり始めたネガ。
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新型インフルエンザならいざ知らず、この“ビネガーシンドローム”は残念ながらいまだに予防する抜本的な方法が見つかっておらず、症状が出始めたらただちにデータ化しておくほかありません。ただ、最近では同様の症状に悩まされているマイクロフィルムや8ミリフィルムにおいて修復技術が研究・開発されつつあるようで、読者の方から劣化マイクロフィルムの修復技術に関する最新情報を発信している「劣化マイクロフィルム110番」(http://micro110.info)を紹介いただきました。

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▲フィルムベースの溶解が見られる(左)。右のネガも加水分解による湾曲が始まっている。すでに1970年代に撮影されたネガでも“発症”が確認されている。
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さっそく、この「劣化マイクロフィルム110番」を開設されている株式会社シンプルウェイの阪口さんに電話でお話をうかがってみました。図書館をはじめ、大学や企業などでマイクロフィルムの劣化はたいへんな問題となっているそうで、状況はモノクロネガフィルムとまったく同様のトリアセテートの加水分解による劣化です。お話によれば、この“ビネガーシンドローム”は自家触媒点と呼ばれる、人間で言えば自家中毒の臨界点を超えると発症し、酢酸ガスを放散することによって他のネガにも感染させてしまうのだそうで、リンゴ箱の中に腐ったリンゴがひとつあると急速に箱中が腐ってしまうのに例えられます。

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▲ビネガーシンドロームに冒された最終状態。さながらストローのようにカーリングしたネガは硬化も進み、無理やり広げようとすると割れてしまいかねない。

対症療法でしかありませんが、ご自身のネガケースをあけてみて酢酸臭が強まっているようであればただちに原因となっているネガを選別隔離することが肝要です。自家触媒点を超えると5年で壊滅的被害となるそうですので、ぜひこの機会に再点検されることをお薦めいたします。「記録」が根幹となっている私たち鉄道趣味にとって、“ビネガーシンドローム”はこれまでにない脅威です。今後も最新情報が入り次第お伝えしてゆきたいと思います。

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